少年は立ち尽くしていた。
目の前の現実が受け入れられなかった。
どうして……?
少年の頭を、そんな言葉がよぎっていく。
つい最近までは、なんともなかったのに。
なのに、どうしていきなりこんなことになっているんだ?
「行くわよ」
彼の母親が少年を促す。が、少年はぴくりとも動かなかった。
「ちょっと、何やっているのよ……」
「母さん」
無理やりにでも連れて行こうとした母親を、少年の父親が止める。
父親の目には、同情の色が混じっていた。
「あいつの気持ち分かっているだろ」
「けど……」
「そっとしておこう」
母親は短い間の後、コクンと頷いて少年から離れる。
少年は、自分の親がどこかに行ったことに気づかなかった。
それ以前に少年としては両親について、そこに誰かがいたと、いう感覚しかなかった。
それぐらいに、周りの状況が把握できなかった。
まるで、少年の周りだけ時間が止まったようだった。
「お前……」
と、ようやく少年は言葉を発する。
「なにやってん……だよ」
小さく、涙でつぶれたような声。
事実、少年は涙ぐんでいた。
あまりの辛さを抱え込み、それでも泣くまいとどうにか留めている顔だった。
「二度と会えなくなるっていうのに……」
少年は最後の別れがこうなるとは思っていなかった。
元から住んでいたこの町を離れることとなり、少年は家族全員で引っ越しの手伝いをしに次の
住まいへと行っていた。その期間は、たかが5日。
だが、その5日のうちに取り返しのつかないことが起きてしまった。
雲の動きが怪しくなる。
空が黒くなってすぐ、大粒の雨が降り始めた。
「お前は、別れの日は会いにいくって言ったくせに……」
大きな音を立てて降ってくる雨と一緒に、少年はついに抑えきれなくなった涙を流した。
頬を伝わり、涙の雫は雨と共に地面を濡らす。
「お前が死んだら……意味ないじゃないか……!」
少年の目の前にあるのは、小さな墓。
大理石で出来た、その墓にはある人が眠っている。
まだ先があるというのに、死んでしまった。
少年は泣いた。
もう戻ってこない人を思い、声を上げて泣いた。
泣いても無駄だと分かっていても、泣かずにはいられなかった。
もう、その人からあの笑みを向けてもらうことは出来ない。
永遠に。
少年の体を包むのは、大降りになった雨のカーテンだった。
それはとても冷たい布で、少年の心を徐々に冷やしていった。