何の声だ。
 全てを凍りつかせ、戦慄を呼ぶこの声は一体なんなのか。
 未来は鎌をぐるんと1回転させ、無言で刃の先端をコンクリートに打ち付けた。その途端、
血の雫のような紅い点が生まれ、線となって鎌を中心に取り囲んだ。1周すると少し鎌側に線
を進め、同じように鎌を囲んでいく。
 それが3周ほど重なると、紅い線は音の波長のような動き方に切り替わった。ジグザグに動
く線は欠片の刃を貫いて反対側の円に辿りつくと、そこを伝ってまた、鎌を中心とした十字路
とするようにジグザグを描いて、輝きだした。
「おいおい……これ、何だよ?」
 ついに耐え切れなくなって、錬は作業中の未来に説明を求めようとした。
「うるさい。邪魔をしようとするな。死にたいのか」
 未来はそれを冷たい声で拒む。
 錬は心が冷えそうな感覚を持ち、同時に気づいた。
 この冷たくて、周りを一転させる凛とした声はあのほんわかそうな彼女のは正反対だ。そし
てその声を、欠片を倒す時にも出していた。
 その話し方は、現代より少し遅れたような。
「お前……誰だ?」
 錬は悟った。
 今の未来には、別の人格が宿っている。
「……」
 未来は黙って、こちらに首を向ける。
 黒曜石のような輝きは失われ、ただ夜の闇を取り入れたかのように静かだった。
 しかし、それも束の間。
「……私は未来だよ」
 バチンと切り替わったように、未来の目には光が舞い戻っていた。
 それに合わせるように、突き刺さっていた刃を取り囲んでいた紅い線が光をなくし、時間が
巻き戻るがごとく線が消え失せていく。線が完全に消えるのを確認して、未来は自分の持って
いた鎌を空気に溶け込ませた。
 音が完全に遮断される。
 その空間を打ち破るように口を開いたのは、錬だった。
「結局お前は何をしたんだ?」
 本当に聞きたかったのは未来の事だった。
 だが、未来の表情は何かを必死に隠そうとしていて、それを暴こうとうするのは男としてだ
めなんじゃないかと思ったのだ。
「調べた。これを欠片とする〈吸魔〉の本体が、一体どういう意思を持っているのかをね」
「へぇ。で?」
「……切り刻みたいらしい。人を」
 未来は言うのが辛いと顔に書くように。
「憑かれた人は相当誰かに対する殺意があるんだね。けれどその目的は達成されている。早く
止めないと時間の問題かも」
「問題って、何が?」
「〈吸魔〉に体を奪われた人間も多少は意識がある。初めの方なら救い出せるの。けれどね、
宿主の感情は次第に乏しくなっていくの。最後に〈吸魔〉に魂を完全に吸われたら、もうその
時には……」
 言おうとして躊躇っている彼女の言葉を、勝手に繋げた。
「助からないってか。冗談だろ……」
 震えた声を、出す。
 強くなった風が、その場の音を出そうと頑張っていた。
 空もいつしか夜に変わり、夜空の恒星は悲しそうに樫崎市の町を照らしていた。





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