ウラス・ホーガの3つの建物は、それぞれが孤立した建物だ。
 真ん中にあるのが、雷牙や真樹斗が所属している機関、アレクトロとなる。その向かって右
側が都立図書館となり、アレクトロをはさんで左側が国会(マスターベース)となる。
 雷牙はその右側の都立図書館にきていた。
「ふう、相変わらずだねぇ」
 4日ぶりに来た雷牙は、その館内の壁が覆い尽くされるほどの本の量に圧倒される。
 ここは地方でも1番の書物量を誇り、他の地方も含めても上位に入るほどである。しかしな
がら、中の人はまばらだ。
 理由は2つある。1つは本離れ。
 今や手持ちの電子書籍を使えばだれでもどこでも本が読める。それがあるからして、わざわ
ざ図書館にまで立ち入る必要などない。
 2つ目はセキュリティーの高さ。
 ここは大事な本とかが数多く保存されているためセキュリティーが厳重である。そのために
本を借りるための登録もかなり詳しいところまで教えなければならない。それを面倒がる人は
まず借りない。
 以上の2つの点から、図書館離れが急増しているのだ。
「ま、逆にこっちのほうが使いやすいんだけど」
 雷牙は進み入り、棚を見ながら通過していく。やはりほとんどの本が電子化されているだ
けあって、ここに置いてあるのは古い本ばかりだ。
 その中でも、特に古く誰も目に付かないような棚へ雷牙は行く。
「ある、ね」
 摩天楼のように並ぶ本の中から、雷牙は別段分厚い本を抜き出す。表紙には『世界歴史20
85』と印刷されている。
 雷牙は昔の事を知るのが好きだ。
 新しい物にも当たり前のように目を惹かれるが、それよりも昔の方がいい。以前、ルアにお
粥をご馳走になった時も、いろんな意味で嬉しいものだった。
 雷牙は2年程前にここを使い始め、それ以来毎日のようにここに入り浸っている。もちろん
その目的は歴史書で、童話とかには目もくれない。
「この前はどこまでよんだっけ」
 ぱらぱら、と。もう読み潰したページをめんどくさそうにめくりながら雷牙は探す。それま
でに呼んだ内容は、大体は覚えている。
 例えば、1945年に戦争終結というのがある。
「あった。『2064年、代替エネルギー崩壊』」
 もうこの本のページが無くなる年号まで後少しだった。と言っても、ここからが歴史がぎっ
しり詰まれているため、読み終えるには後1年かかるだろう。
 ここは雷牙は何日か前から何度も読み返している。それは、この年のこの出来事が、今のこ
の世界を作っているのだからだった。
 代替エネルギー崩壊。別名原子崩壊(メルトクライシス)
 内容はというと、2064年までに使われていたエネルギーが日本で突如大爆発。それは日
本全体を巻き込む大惨事となって、日本の人口の約3分の1が、消滅した。
 だが、それは日本だけの出来事じゃなかった。世界各地にそれは次々と起きて、膨大な死者
を記録した。
 しまいにはその大爆発で起きたエネルギーが地核を揺さぶって、地震、噴火、洪水などの大
災害が頻繁に繰り返された。
 それが全て終わった時、残っていたのは分厚い雲に覆われた空と急激に温度が下がった地表、
そして水という水全てが氷となった世界だった。
 これが、原子崩壊の内容。
「ほんと、これってあいまいなところもあるんだよね」
 雷牙はざらっと読み返して、首を傾げる。
 歴史書は真実を伝える物だ。しかし、これにはエネルギーが爆発したと書かれていても、そ
の爆発したのは何かが書かれていない。そこが少しあいまいなのだ。
 それにもう1つ。なぜ氷の世界で人間は生き残れたのだろうか。
「本当に凍ってしまったのなら何も出来ない。植物も生えないし、火も使えない。なのになん
で、そう書かれているのだろう」
 全てが矛盾しているこの本は、所々に偽りを混ぜているようだった。
「よし! たまには調べてみるか!」
 と言って勢いよく立ったところに、雷牙はその勢いのあまり机に膝をぶつけた。
「――」
 小指をぶつけたような感覚を、雷牙は膝に味わう。
 悶絶する事30秒。
「――――、とりあえず、化学の本を」
 未だぴりぴりと電気を流したような感覚に見舞われながら、雷牙は足を動かして化学の分類
へ行く。
 どれもこれも似たようなものだったので、何を選ぶか悩んだが、雷牙はとりあえず『化学薬
品の質量と効果』という事典を棚から引き出した。
 そして、その中身を1ページ開く。
 すぐさま閉じる。
「無理。こんなの見れない」
 まさかの1ページ目からもう薬品の化学式やらその使い方やら注意やらが事細かに書き廻ら
されていた。雷牙は科学者ではないので、見ただけでめまいがする。
 側面には辞書のように見出しが書かれていたが、そもそもこういう効果がある、というので
探す雷牙には皆無だ。
 しょっぱなから行き詰まり、雷牙は頭痛のように頭を抱える。
「……あ、そうだ」
 唯一知っている科学物を、雷牙は記憶から引っ張り出す。
 ウラン、トリウム、プルトニウム。歴史書のコラムに少し載っていた物質だ。
 それを見出しから調べていって、その詳細を雷牙は目を凝らした。
 それぞれの説明は全く同じで、どれも放射性元素とかいうよく分からないものらしい。毒も
ある事が書かれている。それよりも、雷牙は最後の単語に目がいった。
 核分裂。
「歴史書で出ていたね」
 2064年――原子崩壊の日まで使われ続けたエネルギーの生産方法の仕組みらしい。一般
には原子力発電と歴史書には書かれていた。今はそんな方法、危険すぎて使われてなどいない。
 核分裂に対して目次が記載されていたので、雷牙はそのページを開く。
 この事典によると、3つの重い原子核が放射能を浴びさせる事で2つ以上に分裂させる事ら
しい。その時に出来る莫大なエネルギーを使って、原子力発電が開発されたとこれ書かれてい
る。  だが、そんな事は雷牙にはどうでもよかった。そんな説明を無視して、雷牙はその先の毒性
について読み進める。
 ポロニウムとかラジウムなんて理解出来ない言葉は置いといて、いろいろ言葉を噛み砕くと、
核分裂には放射能というのが出るらしい。それが、環境汚染に繋がると書かれている。
「環境汚染……?」
 雷牙は棚にしまい込んだ歴史書の記憶と照らし合わせて、不自然に感じた。
 原子崩壊はエネルギーの暴走による大爆発によるものだと歴史書では書かれていた。もしそ
れが原子力発電によるものなら、たどる末路は環境汚染によるもののはず。
 ゆるやかな崩壊であって、急激な崩壊は起きないはずだ。
「原子力はなしか。なら他の方法は?」
 それにはその時の情勢を知る必要がある。おそらくここにはないだろうと雷牙はふんで、バッ
グからさっきもらった端末機を取り出す。
 青の液晶が、画面いっぱいに広がり、中心に検索窓がある。
「2064年までの電力発電」
 雷牙が強弱つけずに言うと、その検索窓に言ったとおりの文字が打ち込まれ、一瞬にして関
係する単語が浮かび上がった。
 水力、火力、風力、太陽光の4つが表示される。
「ふ〜ん、今にはどれもないやり方なんだね」
 昔の発電の仕方を見て、雷牙は楽だ、と感想を述べる。
 だが、火力以外のものは全て今の環境上成しえる事ができない。火力発電も、石炭の不足か
ら窮地に追い込まれている。
 今だから出来ないが、どれもこれも魅力的なものだった。
 普通に考えて、どれも危険を及ぼしそうなものなどない。あると言えば火力発電の、過失で
の爆発だがそんなものでで環境が壊れるのだろうか。
 う〜ん、と雷牙は腕組みして、何がどうなっているのか考える。
 その時、一瞬にして辺りが真っ暗になった。
「うわっ!」 
 雷牙は驚きのあまり椅子を傾かせてしまった。ガタン! と暗闇の中で椅子が倒れた音が響
き渡る。
「いてて……、今何時?」
 雷牙は時計のバックライトを点けてかくかくの時刻を見る。デジタルな時計はしっかり『1
0:05』と表されていた。
 この図書館の閉館時間だ。
「普通人がいるか見てから閉めるだろ! もう!」
 誰も見えない空間に、雷牙の声だけがよく響く。
 叫んでも誰にも聞こえないので、とりあえず出口を探さなければならない。しかし、この図
書館は大切な物が保管されているためロックがすごい。もしかしたらここで一夜明かすかも、
と雷牙は絶望を想像する。
 と言っても嘆いてばかりじゃらちがあかないので、ひとまず雷牙は入り口へと向かおうとす
る。  その時、コツンと足音が届いた。
 

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